導入事例

公開日: 2026.5.28

職人の手仕事を守りながら、データ活用で1割超の生産量向上。創業153年の三星刃物が実現した現場DX

明治6年創業、刀鍛冶の系譜を継ぐ三星刃物株式会社。岐阜県関市で150年以上にわたり刃物づくりを続け、2015年には初の自社ブランド「和 NAGOMI」を立ち上げました。一人の職人が丹精込めて一本の包丁を仕上げる高品質な製品は、国内外から高い評価を得ています。しかし、製造現場では長らく属人的で曖昧な管理が続いており、需要に生産が追いつかない状況でした。本記事では、現場主導で始まったDXによる、月産1,700本超への生産量向上を実現した取り組みについてご紹介します。

現場を信じ、後押しする。経営層が語るDX推進

「和 NAGOMI」の人気拡大に伴い、工程ごとの所要時間や原価の把握が急務となる中、Smart Craftを導入した三星刃物。その経営の視点から、導入の背景と成功の要因について、代表取締役社長の渡邉隆久様に伺いました。

OEMから自社ブランド立ち上げへ──三星刃物の歩み

渡邉社長:三星刃物は明治6年(1873年)に創業しました。刀鍛冶だった曽祖父の代から岐阜県関市で刃物の製造・販売に携わっており、私で5代目になります。先祖を遡ると600年ほど前まで辿ることができ、その頃の刀も残っています。

当社は長らくOEMを中心に事業を行ってきましたが、15年ほど前に「本当によいものとは何か」という原点に立ち返りました。3年の試行錯誤を経て製品化にたどり着いたのが、「和 NAGOMI」というブランドの包丁です。

製造の工程ではロボットも活用していますが、最終的な仕上げは人の手で行っています。代々受け継がれてきた伝統技術だけでなく、一人の職人が一本の包丁を丹精込めて作り上げることが、当社の強みだと考えています。

「原価も生産効率も見えない」状態からの脱却を目指して

渡邉社長:関市の刃物製造は分業体制が特徴です。刃の焼き入れ、研ぎ、持ち手の造形といった工程ごとに地域の専門業者が分担し、それぞれが仕上げたものを組み立てて一本の包丁にします。各工程で業者に発注すれば、加工されたパーツが順に納品されてくるため、従来は製造工程を細かく管理する必要がありませんでした。

しかし、「和 NAGOMI」を始めてからは状況が変わりました。分業体制を生かしながらも、当社でしかできない付加価値の部分、つまり手作業で丁寧に作り込む工程を加えることで製品の価値を高めています。ところが、従来の分業体制のままの感覚で管理していたため、各工程の所要時間も原価計算も曖昧なまま、なんとかなってきてしまったというのが実情でした。

製品の人気が高まり需要が増えてくると、生産量をどう増やすか、いかに効率よく生産するかが課題になります。一方で、職人の手仕事という強みは維持したい。この二つの矛盾を抱える中で、「作ってみたものの、原価はいくらなの?」という状態が続いていました。そうなると、販売計画も立てられません。あるときは突発的なテレビ取材があって注文がドンと増えて、気づいたら棚に製品がなくなっていた、ということもありました。

営業は売りたい、製造側は急に言われても、手作りのものを短期間で大量には作れない。お互いにフラストレーションが溜まる状況が続いていました。

トップダウンではなく、現場からの提案で始まった導入

渡邉社長:私自身、上述のような現場の管理体制に対する問題意識はずっと持っていたのですが、具体的な解決策が見えていませんでした。そんな矢先、製造部主任の細川から、Smart Craftの導入について提案を受けたのです。

現場の課題を解決するうえでいちばん大切なのは、工場で日々ものづくりに携わっている現場の社員たち自身が、課題を自分ごととして捉えてくれることです。製品を待ってくれているお客様がいる。では、その方々にどう届けるのか。自分ごとになると、「こうしたほうがいいんじゃないか」と自発的に発想が生まれます。そうした声が現場から上がってくるのが嬉しかったですし、実際、それが課題解決につながりました。

細川たちは自らSmart Craftを見つけてきて、会社の事情も理解したうえで、段階的に導入の検証を進めてくれました。その過程で、「ここまでできました」「ここまで広げられるかもしれません」とステップを踏んで説明してくれたので、私自身も納得しながら理解を深められました。
経営者である私ができたのは、彼らが「これなら自分たちが使いやすい」と導入を決める、その判断を後押しすることだったと感じています。現場発で物事が動き出すと、トップダウンとは比べものにならないスピードで進みます。

Smart Craftを導入してからは、みんな明るくなりました。「やるぞ」という感じが伝わってくるのは嬉しいです。若い社員も増えていて、彼らがSmart Craftの使い方をあとから入社した社員に教えてくれています。前向きにやっていこうという雰囲気がありますね。
加えて、製造と営業が連携できるようになりました。製造データを共有できるようになったことで、製造は営業の立場を、営業は製造の立場を理解できるようになったのです。生産量の不足による販売機会のロスもなくなり、先を見据えた建設的な話ができるようになりました。

製造部で定着したDXを、会計・経営基盤へと広げていく

渡邉社長:次のフェーズは、製造工程別の管理と同時に原価計算をしっかりやることだと考えています。原価計算ができれば、製品の原価を把握しながら、最も効率のいい生産方法を追求できます。とはいえ効率だけを考えるのではなく、職人が手がける仕事という強みを生かしつつ、より付加価値の高い新製品にも挑戦していきたいです。

もう一つは、製造部で実現できているDXを全社に広げることです。当社の会計ソフトはまだまだ古いものを使っています。製造原価、受注・在庫、販売計画、会計処理といった業務は本来すべてつながっているものですから、全社の基幹システムをDX化して、データを一元管理し、将来予測にも生かせるようにしていきたいと思っています。

製造部の取り組みをきっかけに、社内で「会計もDXを進めなくてはならないのでは」という意識が芽生えてきています。ただ、これも上から押しつけては上手くいきません。実際に仕事が楽になることを体感してもらいながら、より効率のいい働き方につなげていきたいです。

「次、何したらいい?」がなくなった──担当者が語るDXの裏側

三星刃物でのSmart Craftの導入は、現場で日々の課題に向き合ってきた担当者が、「なんとかしたい」と自ら声を上げたことから始まりました。ツールの選定から導入・定着、そして生産量向上という成果に至るまでの軌跡を、細川将宏様(製造部 主任)と小林英将様(製造部)に伺いました。

指示を仰ぐ相手がいないと作業が止まる、属人的な現場

細川様:当社の製造現場は伝統的なやり方が長く続いてきたこともあり、工程管理や在庫管理が細かくできていませんでした。私が入社した当時は「和 NAGOMI」の注文が伸びていたのですが、残業しても残業しても製造が追いつかない。また製品の包丁がどこに何本あるのかもわからず、倉庫を全部ひっくり返して探し出すような非効率な状態でした。

もう一つ、課題だったのが属人化です。工程の全体を把握しているのが工場の責任者一人で、その人に聞きに行かないと次に何をしたらいいかがわからない。さらに在庫の場所も、その人しか把握していないといった状況でした。

小林様:私が入社したときも同様で、新人の立場からすると、なおさら困ることが多かったです。工程や在庫を把握している人のところに話を聞きに行かないと、仕事ができない。その人が不在だったり、どこかで作業していたりすると、誰に指示を仰いだらいいかわからないこともありました。入社した頃から「この状況をどうにかしたいな」とずっと思っていました。

5社比較で選んだ決め手──運用の柔軟さと現場が迷わない操作性

細川様:最初は費用をかけずに、エクセルやスプレッドシートで自分たちでできる管理から始めました。そのやり方で上手くいく手応えがつかめたので、次の段階としてちゃんとしたシステムを導入しようと考えたのが、ツール選定のきっかけです。

選定にあたっては5社ほど、サービスを比較しました。当初は、AIを活用して全自動で実績収集までできるようなシステムがあればいいなと、構想としては思い描いていたこともあります。ただ各社を比較する中で気づいたのは、我々の製造工程は人の手による作業が多く、作業時間や進め方に人ごとのばらつきが出やすいということでした。そうした曖昧さのある現場に完全自動のシステムを当てはめると、データと実態がずれて、かえって不具合や運用トラブルが増えてしまう。そうした懸念点が見えてきました。

最終的にSmart Craftを選んだ決め手は、運用の厳密さをこちら側で調整できる点です。仕組みとしてギチギチに縛ってこない、つまり、現場ごとの運用のばらつきを許容しながら、自分たちでルールを工夫できる余地がある。この「いい意味でのバッファ」が、私たちの現場には合っていると感じました。

小林様:私は現場目線で見ていたのですが、作業者がタブレットで使う操作画面がとてもシンプルに作られている点がよかったです。当社は若いメンバーも多いのですが、若いからといって新しいシステムに抵抗がないわけではありません。使うのが難しければ難しいほど、現場には浸透しづらいものです。Smart Craftはパッと見て簡単に触れそうだと感じたので、「これなら現場の作業者にもすんなり受け入れてもらえるんじゃないか」と細川に話していました。

実は、Smart Craftは最初の選定候補には入っていませんでした。展示会で担当者の方と名刺交換はしていたのですが、そのときはこちらから他の会社に声をかけて比較を始めていたんです。その後、「Smart Craftも候補に入れてもらえませんか」という連絡をいただいたので話を聞いてみたら、まさかのいちばんよかったという。どんでん返しでしたね。

分業制の工程をシステムに落とし込む──試行錯誤の立ち上げ期

細川様:導入を決めてから実際に運用するまでの立ち上げ期間は、腰を据えて取り組むことが大切だと感じました。まずは、品目や工程、作業者といったマスタデータをSmart Craftに登録するところから始まります。さらに、当社の生産の流れにシステムをどう合わせていくかを設計しなければなりません。

作業者がタブレットでアプリを操作し、実績を入力して次の工程へ進む──この一連の動線を、現場に合わせて丁寧に組み立てていく必要がありました。一方で、試行錯誤を続けるうちに自分たちも慣れてきて、そこからはスムーズに進んだ印象です。

もう一つ立ち上げで大切だと感じたのは、現場の担当者である私たち自身が「やろう」という雰囲気を作っていくことです。社長から「やっておくように」と指示されて動いていたら、最後までやり切れなかったかもしれません。現場の側から「やりたい、やっていこう」という意志を見せていくことが何より大事だと思います。

小林様:当社の製造部の仕事は、ある工程までを一人の作業者が担当したら、そこで仕掛品を一度置いておき、別の作業者が手の空いたときに次の工程を進める、という分業のかたちで流れていきます。途中でロットの本数が変わることもあって、例えば50本で進めていた工程を、次の工程では25本ずつに分けて進めるといった具合です。こうした動きに合わせてシステム上の工程の構成を組み立てるのがなかなか難しく、設定のエラーが出たりしながら、いろいろと試行錯誤を重ねました。

私自身、以前ロボットを工場に導入するのを担当したときに、仕事が楽になるのを実感していたんです。なのでSmart Craftについても、導入できれば現場は変わるという確信はありました。実際に運用を始めてしまえばなんとかなるだろうと思いながら取り組んでいましたね。

細川様:最初から完璧に作り込んでスタートするのではなく、とにかくやってみて、ダメだったら変えていく──トライアンドエラーの繰り返しで進めてきたのが、上手くいった要因かもしれません。また一人で悩むのではなく、小林と二人であれこれ相談しながら進められたのも大きかったです。

月産1,500本から1,800本近くへ──作業時間の可視化が生んだ改善サイクル

細川様:Smart Craftを導入して、本当に変わりました。まず、それぞれの作業にどれだけ時間がかかっているのかが、数字で見えるようになったのが大きいです。包丁1本を仕上げるのに何分かけているのか、これまでは作業者本人も会社も把握できていませんでした。それが、きちんと可視化されたんです。

作業時間が数字で出ることで、作業者それぞれが「自分は今、1本仕上げるのにこれくらいかかっているんだな」と把握できます。そして、この時間を短縮すれば自分の仕事の評価につながるという目標が明確になり、現場のやる気につながっています。毎月の作業時間データは個人ごとにフィードバックしていますし、これまで雰囲気で評価していた作業者の仕事ぶりを、データに基づいて適切に判断できるようになったのも大きいです。

管理側としても、作業者それぞれの得意・不得意な作業が見えてくるので、得意な作業を多めに任せ、苦手な作業を減らすといった配分ができます。こうした調整で、現場が上手くまわり始めました。以前は月産1,500本から1,600本で限界だった「和 NAGOMI」の生産数が、今は1,800本近くまで上がっています。「こんなに作れたんだ」という手応えが、みんなのモチベーションになっています。
もう一つ、無駄な作業もなくなりました。以前は、作業者が作業を終えると記入用の机まで移動して紙の日報を書き、それを回収してパソコンで集計する、という流れでした。それが今は、作業者がその場でタブレットに入力すれば実績として記録され、集計もボタン一つで終わります。日報のために使っていた時間が減った分、実際の包丁づくりに集中できるようになったのも、生産数が上がっている理由の一つだと思います。

小林様:指示を出す側の負担も、作業者が確認しに行く手間も、どちらも減りました。以前は作業者が上司に聞きに行かないと次の仕事がわからず、人を探して何度もオフィスや現場を往復していました。また指示を出す側も、そのように至るところから問い合わせが来ている状態だったんです。今は作業者がタブレットを見れば、次に何をやればいいかが入力されているのでそのとおりに動けます。確実に無駄は減りましたね。

細川様:営業との連携も取りやすくなりました。データがあるので、毎月の会議で製造部の生産効率や月産本数を共有して、「この本数で販売計画を立ててほしい」と伝えられます。急に海外から50本規模のまとまった注文が入り、「早く納品してほしい」と要望が来ても、今は生産の進捗状況が見えているので、「これを早めにやろう」と作業の優先順位を判断できます。以前は「急に言われても無理だ」と営業に返すしかなく、営業からお客様へ「納期がかかります」と伝えていたのが、融通が利くようになりました。

使い込みと対象の拡大で、現場をもっと楽に

細川様:まだSmart Craftを使いこなせていない部分があって、現場への展開も7割くらいの進捗です。ここは粛々と進めていきます。最近実装された在庫管理機能も、使いこなせば絶対に作業が楽になるはずなので、もっと使い込んでいきたいですね。

Smart Craftに蓄積されるデータを、原価計算や販売計画に応用していきたいとも考えています。今は「和 NAGOMI」ブランドの生産管理にSmart Craftを使っていますが、新しい商品が出たときには、そこにも運用を広げていきたいです。輸出用の包丁の在庫や副資材の管理まで、会社全体の情報をSmart Craftに集約できたら、会社の状況が一目でわかるようになると思います。

小林様:Smart Craftの機能を余すことなく使って、現場の仕事をもっと楽にしていきたいです。仕事が楽になれば、その分、生産効率ももっと上がっていくと思います。

導入を検討している企業へのメッセージ

渡邉社長:私が実感したことから申し上げると、大切なのは現場が腹落ちするかどうかです。「どのツールを導入するか」を考えるより前に、現場にやる気を持ってもらうこと。そちらが先だと思います。

0から1は、トップダウンでできます。「やるぞ」と言えば進められます。しかし、1から100にしようと思ったら、携わっている人が自分ごととして受け止めないと実現しません。そこに大きなちがいがあると思います。現場が納得して自発的に動くこと、それが一丁目一番地です。

細川様:導入の一歩を踏み出せない企業が多いと聞きますが、実際に進めてみたら、現場はかなり変わります。思った以上に仕事が楽になるので、やらない手は本当にないと思います。

小林様:まず試しに使ってみて、現場の一人、二人に触ってもらうのをおすすめします。「ここが上手くいかないな、じゃあこう変えよう」とトライアンドエラーを繰り返していくと、どんどん手応えがつかめます。その感覚が積み重なれば本格的な導入に向けて判断しやすくなると思うので、まずは小さく始めてみることが大事ですね。

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