製造DXコラム

公開日: 2025.12.22

最終更新日: 2025.12.21

生産管理

BOM(部品表)とは?製造業の「工程管理」を支える重要な役割と、E-BOM・M-BOMの違いを解説

「図面通りに作ったはずなのに、部品同士が干渉して組み立てられない」
「急な仕様変更が現場に伝わっておらず、古い部品を使い続けてしまった」
「生産計画上は間に合うはずなのに、現場では常に部材待ちが発生している」

製造業の現場で日々繰り返されるこうしたトラブル。その根本原因を突き詰めていくと、多くのケースでBOM(部品表)の管理不備部門間の連携不足に行き着きます。

BOMは単なる「部品のリスト」ではありません。設計、製造、そして保守に至るまで、モノづくりのライフサイクル全体をつなぐ「製造業の背骨(バックボーン)」とも言える重要なマスターデータです。

本記事では、BOMの基礎定義から、現場で混乱を招きやすい「E-BOM」と「M-BOM」の違い、その他のBOMの種類、そしてBOMを正しく構築・運用することがいかに「工程管理」の精度向上やQCD(品質・コスト・納期)の最適化に貢献するかについて、体系的に解説します。

BOM(部品表)とは?製造業における定義と役割

BOMの基本定義

BOM(ボム)とは、Bill Of Materialsの略称で、日本語では「部品表」や「部品構成表」と呼ばれます。製品を1つ製造するために必要な「部品」「原材料」「中間品(仕掛品)」、さらにそれらの「所要量(員数)」「仕様」「単位」などを体系的にリスト化したデータのことです。

例えば、自動車1台を作るためには約3万点の部品が必要と言われますが、これら全ての親子関係や仕様を管理しているのがBOMです。

全部門をつなぐ「共通言語」としての役割

BOMが製造業において極めて重要視される理由は、企業内のほぼ全ての部門がBOMを参照して業務を行っているからです。

  • 設計部門:機能を満たすための「技術仕様」を定義する。
  • 調達部門:BOMに基づき、必要な部材を「いつ・どこから・いくらで」買うかを決める。
  • 生産管理部門:BOMの構成情報やリードタイム情報を基に、生産計画を策定したり、MRP(資材所要量計画)を実行して必要な部材量を算出したりする。
  • 製造部門:BOMに従って、正しい手順と部材で製品を組み立てる。
  • 原価管理部門:部品の単価を積み上げて、製品の標準原価を算出する。
  • 保守・サービス部門:修理に必要な交換部品を特定する。

もしBOMの情報が不正確であれば、これら全ての業務が連鎖的に破綻します。BOMは、モノづくり企業の「共通言語」そのものなのです。

BOMの構造と管理パターン

BOMには、管理目的や用途に応じていくつかの表示形式(構造)が存在します。本記事では便宜上、以下の3つに分類して説明します。

※ベンダーや文献によっては、「単一レベルBOM/多段BOM」「コンフィギュレーションBOM/バリアントBOM」など、異なる呼び方をする場合もあります。

サマリ型 BOM(フラット型)

製品1つあたりに必要な部品の「総量」だけを並列にリスト化した形式です。階層構造(親子関係)を持たず、「Aという製品を作るには、ネジが合計20本、鉄板が3枚必要」という情報のみを示します。

  • 主な用途: 調達部門(発注総量の計算)、見積作成

ストラクチャ型 BOM(階層型)

製品の組み立て順序に合わせて、親・子・孫といった階層構造(ツリー状)を持たせた形式です。「エンジン」という親部品の下に「ピストン」「シリンダー」という子部品がぶら下がる形で管理されます。

  • 主な用途:設計(機能構成の把握)、生産管理(工程展開)、製造現場(組立指示)

パラメータ型 BOM(バリエーション対応)

似たような製品でサイズや色が異なる場合、共通部分をベースにしつつ、仕様の違いをパラメータ(変数)として管理する形式です。多品種少量生産やカスタマイズ製品に適しており、「コンフィギュレーションBOM」「バリアントBOM」などと呼ばれることもあります。

なぜ現場は混乱するのか?用途別BOMの種類と違い

「BOMはシステムにあるはずなのに、現場ではトラブルが絶えない」。その最大の原因は、部門ごとに「見たい情報」や「管理すべき粒度」が異なるにも関わらず、無理やり1つのBOMを使おうとしている(あるいは逆に、バラバラに管理していて連携できていない)ことにあります。

特に重要なのが、E-BOMM-BOMの乖離問題です。

E-BOM(Engineering BOM:設計部品表)

  • 作成者 設計・開発部門
  • 目的:「機能」を満たす製品構成の定義(Design for Function)
  • 特徴:
    • CADデータや図面と紐付いています。
    • 機能ブロック単位で構成されます。
    • その一方で、組み立てに必要な「副資材(接着剤、グリス)」や「梱包材」が含まれないことも多く、 E-BOMだけではそのまま製造に使えないケースが少なくありません。

M-BOM(Manufacturing BOM:製造部品表)

  • 作成者:生産技術・生産管理・製造部門
  • 目的:「製造」するための手順と手配の定義(Design for Manufacture)
  • 特徴:
    • 実際に工場でモノを作る順序(工程)に基づいて構成されます。
    • E-BOMにはない「ファントム(中間品)」や、各種副資材、梱包材、治具などが追加されます。
    • 調達リードタイムや製造リードタイム(加工時間)などの情報も、M-BOMに紐づく品目マスタや工程マスタとあわせて管理されます。

その他の重要なBOM

  • S-BOM(Sales BOM):
    販売用の構成。セット販売品やオプション構成を管理します。
    ※本記事では便宜的にSales BOMを「S-BOM」と表記します。ベンダーによっては、Service BOMやSoftware BOMをS-BOMと呼ぶ場合もあります。
  • K-BOM(Kit BOM):
    部品単体ではなく、組み立てに必要なセット(キット)単位で調達・払い出しを行うためのBOM。現場作業を簡略化する目的で使われます。
  • Service BOM(サービスBOM):
    アフターサービス用。修理交換可能な部品のみを定義したリストです。溶接された部品などは分解できないため、アセンブリとして扱われるなど、M-BOMとは構成が変わります。

E-BOMとM-BOMの乖離が招くトラブル

設計部門が仕様変更(E-BOM修正)を行った際、それがM-BOMや関連マスタに正しく変換・反映されないと、以下のような事態が起きます。

  1. 手配漏れ
    新しい部品を取り付けるためのネジやブラケットがM-BOMに追加されておらず、組立ラインで「モノがない!」と発覚する。
  2. 在庫の死蔵
    設計変更で廃止になった部品の発注を止められず、使えない部品が倉庫に山積みになる。
  3. 工程の矛盾
    設計上は組み立て可能でも、実際の製造手順(M-BOM・工程マスタ)では工具が入らず組み立てられない。

工程管理にM-BOMが不可欠な理由

ここまでは「モノ(部品)」の話をしてきましたが、実はBOMの精度は「時間(スケジュール)」の管理、すなわち工程管理の成否に直結します。なぜなら、生産計画の中枢であるMRP(資材所要量計画)は、BOMを計算根拠にしているからです。

M-BOMは「工程管理の地図」である

工程管理とは、納期通りに製品を完成させるために、各工程の進捗をコントロールすることです。しかし、BOMが不正確だと、どんなに優秀な工程管理システムを使っても正しい計画は立てられません。

理由1:リードタイム計算の基礎になる

生産管理システムは、品目マスタや工程マスタに登録された「調達リードタイム(LT)」と「製造LT(標準時間など)」を、M-BOMの構成情報と組み合わせて積み上げ、「いつ着手すべきか」を逆算します。

M-BOMや工程マスタ上で「外注加工に3日かかる」という情報が抜けていれば、計画段階で既に3日の遅れが確定してしまいます。

理由2:中間品(ファントム)の管理

製造工程が複雑な場合、途中で「半製品A」「半製品B」といった中間品が生まれます。これらをM-BOM上で正しく定義(ファントム設定など)していないと、「どの工程のタイミングで、どの部材をライン投入すればいいか」の指示が出せません。結果、部品が早く届きすぎて置き場がなくなったり、逆に必要な時に届かなかったりします。

BOP(Bill of Process)との統合

近年では、BOM(モノの情報)に加え、BOP(Bill of Process:製造工程表)をセットで管理する重要性が高まっています。BOPとは、「手順」「使用設備・治具」「標準作業時間」「スキル要件」などのプロセス情報を管理するものです。

「正しい材料リスト(M-BOM)」と「正しいレシピ(BOP)」が揃って初めて、精度の高い工程管理が実現し、QCD(品質・コスト・納期)の最適化が可能になります。

BOPについて詳しくはこちら

アナログ管理の限界と、BOMシステム化のメリット

多くの中小・中堅製造業では、E-BOMはCADやPLMで管理されている一方、M-BOMは現場担当者がExcelで独自に管理しているケースも少なくありません。しかし、部署ごとにExcelファイルを回して集計するいわゆる「Excelバケツリレー」には限界があります。

Excel管理の「3つの落とし穴」

  1. 属人化
    「この製品の代替部品はこれ」「この工程の歩留まりは悪いから多めに発注する」といったノウハウが、特定の担当者のExcel(あるいは頭の中)にしかなく、担当者が休むと生産が止まる。
  2. 先祖返り
    ファイルをコピーして共有しているうちに、「どれが最新版か」が分からなくなり、古い図面で発注してしまうミスが起きる。
  3. リアルタイム性の欠如
    設計変更の連絡がメールや紙で回ってくるため、Excelを更新するまでにタイムラグが生じ、手戻りが発生する。

システムによる「統合BOM」構築のメリット

生産管理システムやBOMシステムを導入し、E-BOMとM-BOMを統合管理することで、以下のメリットが得られます。

  • 変更管理(4M変更)の迅速化
    設計変更が即座に購買データや製造指示書に反映され、ムダな調達や廃棄ロスを削減できます。
  • トレーサビリティの確保
    不具合発生時、「いつ・どのロットの部品を・どの工程で使ったか」を瞬時に追跡(トレース)可能になります。これは品質保証において必須要件です。
  • 原価管理の精度向上
    実際の購入単価や、現場の実績工数に基づいた正確な原価計算が可能になり、製品ごとの収益性が可視化されます。

BOM構築・運用の成功ステップ

これからBOMを整備する、あるいは再構築する場合、以下のステップを意識することが重要です。

STEP 1:品目コード(品番)の統一

「同じネジなのに、設計と購買で呼び名やコードが違う」状態を解消します。全社統一の採番ルールを決め、名寄せを行います。

STEP 2:親子関係(階層)の整理

製品を構成するユニット、アセンブリ、部品の階層構造を定義します。この際、設計視点だけでなく、製造工程の流れに沿った階層(M-BOM)を意識することが重要です。

STEP 3:BOMと工程(BOP)の紐付け

単なる部品リストで終わらせず、「どの工程で使う部品か」という情報を紐付けます。これにより、工程進捗に合わせたジャストインタイムな部品供給が可能になります。

STEP 4:運用ルールの徹底

最も重要なのが「勝手に変えない」ことです。設計変更通知書(ECN)などのワークフローを整備し、正規の手続きを経てBOMが更新される仕組みを作ります。

まとめ

本記事では、BOM(部品表)の基本から、E-BOM/M-BOM/Service BOMといった用途別BOMの違い、そして工程管理との関係について解説しました。

  • BOMは、部品の一覧ではなく、設計・調達・生産管理・原価・保守をつなぐ製造業の共通言語である。
  • 設計起点のE-BOMと、製造起点のM-BOMの乖離は、手配漏れ・在庫の死蔵・工程矛盾といった典型的なトラブルを生む。
  • 工程管理の精度は、M-BOMとBOP(プロセス情報)の整備度合いに大きく依存しており、MRPの前提としてBOMの品質が極めて重要である。
  • Excelなどによるアナログ管理には、属人化・先祖返り・リアルタイム性欠如といった限界があり、統合BOMによるシステム管理へのシフトが不可欠である。

不良削減とQCDの最適化を実現するために、まずは自社のBOMの構造や管理方法を見直し、「E-BOMとM-BOMがどの程度つながっているか」「現場実績をBOMにどうフィードバックできているか」を点検することが第一歩になります。

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