製造DXコラム

公開日: 2026.5.22

最終更新日: 2026.5.22

製造原価の計算方法を3ステップで解説〜基本式から実務の落とし穴まで

「製造原価の計算って、結局どうやればいいの?」「Excelや紙の日報での集計、これで本当に合っているのだろうか?」──製造業の経理担当者や経営者であれば、一度は感じたことがある疑問ではないでしょうか。

原材料費だけでなく、人件費、設備の減価償却費、工場の光熱費など、製造原価には数多くのコストが含まれます。さらに「直接費」と「間接費」の分類、間接費の配賦、仕掛品の調整など、考慮すべき論点も少なくありません。

本記事では、製造原価の計算方法を「3要素の分類 → 3ステップの計算手順 → 実務の落とし穴」の流れで体系的に解説します。具体的な数値例を用いながら、計算式に当てはめるだけでなく「自社の原価計算が実態と合っているか」を判断できるレベルまで踏み込みます。原価計算の基本を押さえて、利益を生む工場経営の第一歩を踏み出しましょう。

この記事で分かること 
✓ 製造原価を構成する3要素と直接費・間接費の分類
✓ 3ステップで実践できる原価計算の具体的なやり方(数値例つき)
✓ 自社の原価計算が実態と合わない時のよくある原因と解決アプローチ
✓ 計算した原価を経営判断・現場改善に活かす方法

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目次

製造原価とは?まずは全体像を掴もう

製造原価の計算方法を学ぶ前に、まず「製造原価とは何か」「なぜ正確な計算が経営にとって重要なのか」を整理しておきましょう。計算の目的を理解することで、後の手順も腹落ちしやすくなります。

製造原価の定義:製品をつくるためにかかった「すべて」のコスト

製造原価とは、製品を製造するためにかかったすべてのコストの合計を指します。具体的には、原材料の購入費用(材料費)、製造に関わる従業員の人件費(労務費)、工場の光熱費や設備の減価償却費など材料費・労務費以外の費用(経費)の3つで構成されます。

重要なのは、製造原価は「工場で製品を作るためにかかった費用すべて」を含むという点です。一方、本社の事務員の給与や営業部門の経費などは、製品の製造に直接関わらないため、製造原価ではなく「販売費及び一般管理費(販管費)」として区別されます。この線引きが、原価計算の出発点となります。

製造原価と売上原価の違い

製造原価とよく混同されるのが「売上原価」です。両者の違いは、「対象とする範囲」にあります。製造原価は「当期に製造した製品全体にかかったコスト」を指すのに対し、売上原価は「当期に売れた製品にかかったコスト」を指します。

たとえば、当期に100個の製品を製造して80個を販売した場合、製造原価は100個分のコスト全額が対象ですが、売上原価は売れた80個分のコストのみが対象です。残りの20個は「製品在庫」として資産に計上され、翌期以降に販売されたタイミングで売上原価に振り替えられます。この区別を意識せずに「原価」と一括りにしてしまうと、決算上の利益計算を誤る原因になります。

正確な原価計算がもたらす3つの経営メリット

製造原価を正確に計算することは、単に決算書を作るためだけの作業ではありません。経営判断の精度を大きく左右する、3つの実践的なメリットがあります。

1つ目は、改善ポイントの可視化です。原価の内訳を細かく見ることで、「材料費が想定より20%高い」「特定工程の労務費が膨らんでいる」といった異常を発見でき、コスト削減の打ち手が明確になります。

2つ目は、赤字製品・赤字受注の早期発見です。製品ごと・案件ごとの収益性が見えれば、どの製品が利益貢献しているか、どの案件で損失が出ているかを判断でき、生産計画や受注方針の見直しにつなげられます。

3つ目は、適正な販売価格の設定です。原価が正確に把握できれば、利益を確保できる価格レンジが明確になります。逆に、原価がどんぶり勘定だと、根拠のない値付けで赤字受注を繰り返す危険性があります。

製造原価を構成する3要素:材料費・労務費・経費

製造原価は「材料費」「労務費」「経費」の3要素で構成されます。これは原価の「形態別分類」と呼ばれ、原価計算の基本となる分類軸です。それぞれの中身を具体例とともに見ていきましょう。

材料費の内訳と例

材料費とは、製品の製造に消費した物品の費用です。製品の本体となる主要な原材料だけでなく、製造に使う消耗品や燃料なども含まれます。

材料費は、用途によってさらに以下のように細分化されます。

分類具体例
主要材料費製品の主成分となる原材料(自動車部品なら鋼板、食品なら小麦粉など)
買入部品費外部から購入し、そのまま製品に取り付ける部品(ネジ、モーターなど)
補助材料費製品の一部にはなるが補助的な材料(接着剤、塗料など)
工場消耗品費製造工程で消耗する物品(潤滑油、研磨剤、軍手など)
消耗工具器具備品費耐用年数1年未満または少額の工具・器具

労務費の内訳と例

労務費とは、製品の製造に従事する人にかかる人件費です。製造現場で直接作業する従業員だけでなく、現場の管理者や工場の事務員の人件費も含まれます。

分類具体例
賃金時給・日給制の作業員に支払う給与(残業手当・深夜手当を含む)
給料月給制の正社員(製造管理者、工場事務員など)の給与
従業員賞与・手当賞与、家族手当、通勤手当など
法定福利費※健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料の会社負担分
退職給付費用退職金の引当金繰入額

※法定福利費は、原価計算基準上は間接労務費として例示されており、本記事ではこれに沿って労務費に分類しています。ただし、企業によっては会計システム上「経費」として処理するケースもあり、実務の分類は自社の経理ルールに従ってください。

経費の内訳と例

経費とは、材料費と労務費以外の製造原価すべてを指します。範囲が広く、項目数も多くなりがちなため、しっかり整理することが重要です。

分類具体例
減価償却費工場の建物、機械設備、備品などの減価償却費
外注加工費一部工程を外部委託した場合の加工費
水道光熱費工場の電気代、ガス代、水道代
修繕費設備の保守・修理にかかる費用
賃借料工場や設備のリース料・賃借料
保険料工場・設備に対する火災保険料など

製造原価のもう一つの分類:「直接費」と「間接費」

製造原価には、3要素(材料費・労務費・経費)の分類とは別に、もう一つ重要な分類軸があります。それが「直接費」と「間接費」の区別です。この分類は、原価計算における最大の難所である「配賦」の議論に直結する、極めて重要な概念です。

直接費とは(製品に直接ひもづくコスト)

直接費とは、特定の製品に直接ひもづけて把握できる費用です。「この製品Aの製造に、いくらかかったか」が明確に分かるコストを指します。

たとえば、製品Aの主原料となる鋼板の費用は「直接材料費」、製品Aの組立てに専従した作業者の賃金は「直接労務費」、製品Aの製造のために特別に発注した外注加工費は「直接経費」として計上されます。直接費は、製品ごとの原価をそのまま積み上げればよいため、計算は比較的シンプルです。

間接費とは(複数製品に共通して発生するコスト)

間接費とは、複数の製品にまたがって発生し、特定の製品にひもづけて把握することが難しい費用です。

代表的な例として、工場全体の電気代を考えてみましょう。同じ工場で製品A・製品B・製品Cを製造している場合、月間の電気代がどの製品のためにいくら使われたかを、メーターで個別に測ることは現実的ではありません。同じく、複数の製造ラインを統括する工場長の給与や、複数製品で使う共通設備の減価償却費なども、特定製品への紐付けは困難です。これらが「間接費(製造間接費)」です。

なぜ「間接費の配賦」が原価計算の最大の難所なのか

間接費は特定製品にひもづけられないため、何らかの基準で各製品に「配分」する必要があります。この作業を「配賦(はいふ)」と呼びます。

問題は、配賦の基準次第で、製品ごとの原価が大きく変動してしまうことです。たとえば工場の電気代100万円を、生産数量で配賦するか、機械稼働時間で配賦するか、作業時間で配賦するかによって、各製品に振り分けられる金額は変わります。配賦基準が実態と乖離していると、本当はコストがかかっている製品が「儲かっている」ように見えたり、逆に利益が出ている製品が赤字に見えたりする事態が起こります。

つまり、原価計算の精度は「いかに合理的な配賦基準を設定できるか」と「配賦の元になるデータ(作業時間や設備稼働時間など)を正確に把握できるか」で決まると言っても過言ではありません。後ほど解説する「実務の落とし穴」でも、この配賦の問題が大きなテーマになります。

製造原価の計算方法【3ステップで分かる基本のやり方】

ここからは、いよいよ製造原価の具体的な計算方法を解説します。製造業の原価計算は、「費目別計算 → 部門別計算 → 製品別計算」という3つのステップで進めるのが基本です。簡単な数値例を用いながら、各ステップで何を行うかを順を追って見ていきましょう。

ステップ1:費目別計算(材料費・労務費・経費を集計する)

まず最初に、対象期間(通常は1ヶ月単位)に発生したすべての費用を、材料費・労務費・経費の3要素ごとに集計します。さらに、それぞれを「直接費」と「間接費」に分けて把握します。

たとえば、ある工場の1ヶ月分の費用を集計した結果、以下のようになったとします。

費目直接費間接費
材料費3,000,000円200,000円
労務費2,000,000円800,000円
経費500,000円1,500,000円
合計5,500,000円2,500,000円

この時点で、当月の総製造費用は8,000,000円(直接費5,500,000円+間接費2,500,000円)と把握できます。次のステップでは、この費用を「どこで発生したか」「どの製品のために使われたか」に振り分けていきます。

ステップ2:部門別計算(製造部門・補助部門に振り分ける)

次に、ステップ1で集計した費用を「部門」単位に振り分けます。

直接費は発生した部門に直接割り当てられますが、間接費は配賦基準(部門の人員数、面積、設備稼働時間など)を使って各部門に按分します。さらに、補助部門で発生した費用も、最終的には製造部門に再配賦します。これは、製品を製造しているのはあくまで製造部門であり、補助部門のコストも含めて製品原価に反映する必要があるためです。

中小規模の工場では、部門別計算を簡略化したり省略したりするケースもありますが、複数製品を複数工程で作っている工場では、この部門別計算を丁寧に行うことで原価計算の精度が大きく向上します。

具体例で見てみましょう。ステップ1で集計した間接費2,500,000円が、次のように各部門に配分されたとします。

部門区分部門名配分された間接費
製造部門切削課600,000円
製造部門組立課800,000円
製造部門塗装課400,000円
補助部門運搬課300,000円
補助部門工場事務所400,000円
合計2,500,000円

次に、補助部門の費用(運搬課300,000円+工場事務所400,000円=700,000円)を、製造部門に再配賦します。たとえば各製造部門の作業時間比で配賦すると、最終的に各製造部門には以下のような間接費が集まります。

製造部門当初配分補助部門からの再配賦合計
切削課600,000円210,000円810,000円
組立課800,000円280,000円1,080,000円
塗装課400,000円210,000円610,000円
合計1,800,000円700,000円2,500,000円

このようにして、ステップ1で集計された間接費2,500,000円が、最終的に「製品を実際に作っている3つの製造部門」に集約されました。次のステップ3では、この製造部門に集まった費用を各製品(製品A・B・C など)に配分していきます。

ステップ3:製品別計算(製品1単位あたりの原価を算出)

最後に、製造部門に集まった費用を、各製品に配分します。直接費は対応する製品にそのまま割り当て、間接費は配賦基準を用いて各製品に按分します。

間接費の配賦基準として、よく使われるのは以下のような指標です。

  • 直接作業時間基準:各製品の製造にかかった作業時間に比例して配賦する(労働集約型の工場に向く)
  • 機械稼働時間基準:各製品の機械稼働時間に比例して配賦する(設備集約型の工場に向く)
  • 直接材料費基準:各製品の直接材料費に比例して配賦する(材料費の比率が高い工場に向く)
  • 生産数量基準:各製品の生産数量に比例して配賦する(製品仕様が均質な場合に向く)

たとえば、ステップ1の例で、製造間接費2,500,000円を「直接作業時間基準」で配賦するとします。当月の総直接作業時間が5,000時間で、製品Aの作業時間が2,000時間だった場合、製品Aへの間接費配賦額は次のように計算します。

製品Aへの配賦額 = 2,500,000円 × (2,000時間 ÷ 5,000時間) = 1,000,000円

これに製品Aの直接費(直接材料費+直接労務費+直接経費)を加えれば、製品Aの製造原価が算出されます。さらに製品Aの当月生産数量で割れば、製品1個あたりの原価が求められます。これが「製品別計算」の基本的な流れです。

たとえば、製品Aの直接費(材料費・労務費など)が計2,000,000円、当月の生産数量が1,000個だった場合、以下のように計算します。

製品Aの総製造原価 = 2,000,000円(直接費)+ 1,000,000円(配賦された間接費)= 3,000,000円

製品Aの1個あたり原価 = 3,000,000円 ÷ 1,000個 = 3,000円

仕掛品の調整:当期製品製造原価の計算式

ここまでで「当月にかかった製造費用」が算出できましたが、決算上の「当期製品製造原価」を求めるには、もう一つの調整が必要です。それが「仕掛品(しかかりひん)」の調整です。仕掛品とは、月末時点でまだ製造途中の未完成品を指します。

月初に未完成だった仕掛品(前月から繰り越された分)は、当月中に完成した可能性がありますし、当月発生費用の一部は月末仕掛品として翌月に繰り越されます。これを反映するため、以下の計算式で「当期製品製造原価」を算出します。

【当期製品製造原価の計算式】当期製品製造原価 = 期首仕掛品棚卸高 + 当期製造費用 - 期末仕掛品棚卸高

先ほどの例で、当期総製造費用が8,000,000円、期首仕掛品棚卸高が500,000円、期末仕掛品棚卸高が700,000円だった場合は、以下のように計算されます。

当期製品製造原価 = 500,000円 + 8,000,000円 - 700,000円 = 7,800,000円

この7,800,000円が、当月に完成した製品全体の製造原価となります。さらにここから「期首製品棚卸高を加え、期末製品棚卸高を引く」ことで、損益計算書に計上される「売上原価」が算出されます。製造原価計算は、財務会計とこのように連動しています。

知っておきたい「原価計算の種類」と自社に合う選び方

ここまで解説したのは原価計算の「基本の流れ」ですが、原価計算には目的や生産形態に応じて複数の手法があります。自社に合った手法を選択することで、計算の手間と得られる情報のバランスを最適化できます。

個別原価計算 vs 総合原価計算(生産形態で選ぶ)

まず、生産形態に応じた使い分けです。

個別原価計算は、受注ごと・案件ごとに個別に原価を集計する方法です。建設業や造船業、特注機械の製造など、製品仕様が案件ごとに異なる「受注生産・個別生産」に向いています。製造指図書ごとに原価を集計するため、案件単位の収益性を正確に把握できるのが特徴です。

総合原価計算は、一定期間(通常1ヶ月)の総製造費用を、その期間の総生産量で割って製品1個あたりの平均原価を算出する方法です。同じ製品を継続的に大量生産する「見込み生産・連続生産」に向いており、食品、化学、紙パルプ、繊維などの業種で広く使われています。

実際原価計算 vs 標準原価計算(目的で選ぶ)

次に、計算の目的に応じた使い分けです。

実際原価計算は、実際に発生した費用に基づいて原価を計算する方法です。決算書類の作成に必要な原価情報を提供するという財務会計上の目的に対応します。

標準原価計算は、事前に「あるべき原価(標準原価)」を設定しておき、実際原価と比較してその差異(標準と実績のズレ)を分析する方法です。差異の原因を深掘りすることで、改善ポイントを特定できるため、コストダウンや生産性向上を目的とする管理会計の手法として広く活用されています。

原価管理を経営改善に活かしたい場合、実際原価を計算するだけでなく、標準原価との差異分析まで行うことが重要です。「なぜ計画より時間がかかったのか」「なぜ予定より材料を多く消費したのか」を工程レベルで追跡できれば、有効な改善策を打ち出せます。

直接原価計算(変動費のみで原価を捉える)

直接原価計算は、原価を「変動費」と「固定費」に分け、変動費のみを製品原価として集計する手法です。固定費は期間費用として一括処理されます。

この手法は、損益分岐点分析(CVP分析)や限界利益の計算に活用しやすく、「あと何個売れば利益が出るか」「価格を下げてでも受注すべきか」といった経営判断に役立ちます。財務会計の決算には使えませんが、経営判断のための管理会計手法として有効です。

製造原価計算でつまずきやすい3つの落とし穴

ここまで原価計算の理論と手順を解説してきましたが、実際に自社で計算を進めようとすると、教科書通りには進まないことが少なくありません。多くの製造業が共通して陥る「3つの落とし穴」を整理します。

落とし穴1:日報・実績データが正確に取れていない

原価計算で最もよくある問題は、計算式の問題ではなく「計算式に入れる元データの精度」の問題です。とりわけ労務費の計算に必要な「作業時間」のデータが、現場で正確に取れていないケースが目立ちます。

紙の日報を作業終了後にまとめて記入する運用では、記憶に頼った後追い記入が発生し、実際の作業時間と乖離します。事務員がExcelに転記する過程で、判読ミスや入力間違いも入り込みます。さらに「手待ち時間」「設備トラブルによる停止時間」「段取り替えのロス」などの細かい時間が記録されなければ、本当のコストは見えません。元データが不正確なまま計算しても、出てくる原価は実態とかけ離れたものになってしまいます。

落とし穴2:間接費の配賦基準が実態と乖離している

前述のとおり、間接費の配賦基準は原価計算の精度を大きく左右します。しかし実務では、計算の手間を減らすために「すべての間接費を売上比で按分」「製品種類数で均等按分」といった単純すぎる基準を採用しているケースが少なくありません。

このような雑な配賦をすると、本当はコストがかかっている製品Aの原価が低く見え、逆に効率よく作れている製品Bの原価が過大評価される、といった歪みが生じます。結果として、本当は赤字の製品を「儲かっているから増産しよう」と判断してしまったり、利益が出ている製品を「儲からないから縮小しよう」と判断してしまったりする経営ミスにつながります。

落とし穴3:少量多品種・個別受注で「落とし穴1と2」が同時に起こる

近年、製造業のトレンドとして「少量多品種生産」「個別受注生産」へのシフトが進んでいます。同じ製品を大量に作り続けるのではなく、顧客ニーズに応じて多様な製品を小ロットで生産するスタイルです。

この生産形態では、前述の落とし穴1と落とし穴2が、同時かつ深刻に発生します

まず、実績把握の難しさ(落とし穴1)が一気に深刻化します。製品ごとに工程・段取り・作業時間が大きく異なるため、「どの製品にどれだけの工数がかかったか」「どの段取り替えにどれだけ時間を使ったか」を一つひとつ追跡する必要があります。同じ製品を量産する工場であれば「製品1個あたり何分」と平均値で押さえられますが、毎回仕様が違う少量多品種では、その都度実績を取らなければ正確な原価が見えません。Excelと紙の日報では、データ収集と集計の負荷が爆発的に増え、現実的に対応しきれないという声が増えています。

同時に、配賦基準のズレ(落とし穴2)も拡大します。製品ごとに使う設備や工程が異なるため、「全製品一律で作業時間比に配賦」といった画一的な基準では、実態に合わない原価が算出されてしまいます。本来なら製品ごとに異なる配賦ロジックが必要ですが、それを手作業で運用するのは至難の業です。

このように、少量多品種・個別受注は「落とし穴1と2が同時発生する環境」と言い換えられます。だからこそ、現場の実績収集を仕組み化し、製品ごとのコスト発生実態を細かく可視化することの価値が、この生産形態では一段と高くなるのです。

計算精度を上げる鍵は「現場データのリアルタイム収集」

前章で見た3つの落とし穴に共通するのは、「計算式の問題ではなく、計算の元データである現場の一次データに問題がある」ということです。ここでは、原価計算の精度を根本から引き上げる「現場データ収集」の重要性と、その実現方法を解説します。

原価計算の精度は「工数・不良数・在庫推移」の精度で決まる

あらためて、原価計算と現場データの関係を整理してみましょう。

労務費は「作業時間 × 時間単価」で計算されます。つまり、各製品・各工程に費やした作業時間が正確に把握できなければ、労務費の精度は上がりません。

経費(特に減価償却費・電力費)は、設備の稼働時間に大きく依存します。設備稼働時間の記録が曖昧だと、設備関連コストの製品別配賦も不正確になります。

材料費は、不良品が発生すれば、その分だけ材料が余分に消費されます。不良数が記録されていなければ、本来削減できるはずの材料ロスが見えません。

仕掛品の評価は、月末時点で「どの製品が、どの工程まで進んでいるか」を正確に把握する必要があります。在庫推移が曖昧だと、当期製品製造原価の計算式そのものが成立しません。

つまり、原価計算の精度は、現場で記録される「工数」「不良数」「在庫推移」といった一次データの精度そのものに直結します。会計の知識をいくら磨いても、入力するデータが不正確であれば、出力される原価は実態を映さない数字になってしまうのです。

紙・Excelからデジタル収集へ:データ精度が変える原価計算

現場の一次データ精度を高めるには、紙の日報やExcelによるアナログ管理から、デジタル化された実績収集の仕組みへの移行が有効です。タブレットやスマートフォンで作業開始・終了をその場で記録すれば、後追い記入による誤差をなくせます。クラウドでデータが即時に集約されれば、月次集計を待たずにリアルタイムで原価状況を把握できるようになります。

デジタル化のもう一つの大きなメリットは、これまで取れていなかった「見えないムダ」が可視化されることです。手待ち時間、段取り時間、設備停止時間といった、原価を押し上げているがデータに残らなかった要素が記録されることで、改善のメスを入れる対象が明確になります。


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計算した製造原価を「利益」に変える3つの活用法

製造原価は、計算して終わりではありません。計算結果を経営判断や現場改善に活かしてこそ、原価計算が真の意味で「価値ある業務」になります。最後に、算出した原価を活用するための3つのアプローチを紹介します。

活用1:標準原価との差異分析で改善ポイントを特定する

事前に設定した標準原価と、実際に発生した実際原価を比較し、その差異の原因を深掘りすることで、改善すべきポイントが見えてきます。たとえば「加工工程で工数が標準より20%超過している」という差異が見つかれば、その原因を調べることで、「設備トラブルで停止時間が長かった」「新人作業者の習熟度がまだ低かった」といった具体的な要因を特定できます。

この差異分析を有効に機能させるには、工程レベル・作業者レベルの細かい実績データが必要です。月次でざっくり「予算より高かった」と分かるだけでは、打ち手につながりません。

活用2:精度の高い見積もりで赤字受注を防ぐ

過去の実績データが正確に蓄積されていれば、新規案件の見積もり精度が大きく向上します。「この仕様の製品なら、過去の類似案件の実績から見て、これくらいの工数と材料がかかる」と根拠を持って算出できるため、感覚的な見積もりに頼って赤字受注してしまうリスクを減らせます。

とくに少量多品種・個別受注の現場では、見積もり精度が利益率に直結します。実績データの蓄積は、即効性こそないものの、長期的に最も大きな利益貢献をもたらす投資の一つと言えるでしょう。

活用3:工程管理と連携した継続的な原価低減

原価計算で見えた課題を、工程管理の改善活動と結びつけることで、継続的な原価低減のサイクルを回せます。たとえば「労務費が想定より高い」という結果から、ボトルネック工程の特定、段取り改善、人員配置の見直し、多能工化の推進といった具体的な改善策につなげられます。

原価管理と工程管理の関係について、より具体的な改善ステップを知りたい方は、こちらの記事もあわせてご覧ください:

工程管理と製造原価の関係とは?少量多品種でも原価を可視化し、利益を生む工場に変える4ステップ

まとめ:製造原価計算は「現場データの精度」から始まる

本記事では、製造原価の計算方法を「3要素の分類 → 直接費・間接費の区別 → 3ステップの計算手順 → 原価計算の種類 → 実務の落とし穴 → 計算精度を高めるアプローチ → 計算結果の活用法」という流れで解説しました。

改めて整理すると、製造原価計算で本当に難しいのは「計算式」そのものではなく、「計算式に入れる元データを、いかに正確に把握するか」という点です。間接費の配賦基準を合理化することも、仕掛品を正しく評価することも、すべては現場で記録される一次データの精度に依存しています。

Excelと紙の日報による管理では限界がある、と感じている製造業の方は、現場の実績収集をデジタル化することから始めてみてはいかがでしょうか。データ精度の向上は、原価計算の精度向上にとどまらず、見積もりの根拠強化、工程改善のサイクル加速、そして最終的には利益率の向上へとつながっていきます。

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