トレーサビリティとは？意味や管理方法、主要技術について解説
トレーサビリティは、製造業における品質管理と競争力強化のために不可欠な取り組みとして、最近ますます重要性が高まっています。製品の安全性や品質に対する消費者の意識の高まりを背景に、サプライチェーン全体の可視化と管理の高度化が急務とされています。
この記事では、トレーサビリティの基本概念から、製造業における意義、導入によるメリットについて解説します。さらに、トレーサビリティを支える主要な技術と、その導入・強化のためのポイントについても紹介します。ぜひ、最後までご一読ください。
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目次
トレーサビリティとは
トレーサビリティとは、製品や原材料、部品などの物流や工程の履歴情報を記録・保管し、問題発生時にその情報を追跡・遡及できるようにしておくことです。つまり、「いつ、どこで、誰が、何を」行ったのかを明確に管理し、必要に応じてその情報をたどれる状態を指します。”Trace”（追跡する）と “Ability”（能力）を組み合わせた造語で、日本語では「追跡可能性」や「遡及可能性」と訳されることが多いです。
調達・生産・流通・販売の各工程で仕入れ先や製造者を記録することによって、品質管理やサプライチェーンの透明性を高めることができます。
※トレーサビリティの定義に関しては、国際標準化機構のISO9001でも定められています。
製造業におけるトレーサビリティの意味合い
製造業でトレーサビリティについて語られる際は、主に次の範囲が想定されます：
- 原材料・部品の調達から製造、流通、販売に至るまでのサプライチェーン全体
- 工場内の製造工程での原材料や半製品の流れ
- 個別製品に関連する製造記録や品質情報
これらの情報を適切に管理し追跡する体制を整備することで、不良品の発生原因を特定し、リコール対応を迅速に行うことが可能になります。
チェーントレーサビリティと内部トレーサビリティの違い
トレーサビリティは、大きく分けて「チェーントレーサビリティ」と「内部トレーサビリティ」に分類されます。
- チェーントレーサビリティ：サプライチェーン全体を通じて製品や部品、原材料の流れを追跡
- 内部トレーサビリティ：一つの企業、または一つの製造施設内での製品や部品、原材料の流れを追跡
サプライチェーン全体を追跡する「チェーントレーサビリティ」
チェーントレーサビリティとは、原材料の調達から部品の生産・加工・卸売・小売に至るまでのサプライチェーン全体に対するトレーサビリティです。
このシステムは、複数の企業が関与する一連の工程で、各段階の情報を追跡し遡及することを可能にします。これにより、問題発生時の迅速な対応や製品の安全性及び品質の保証が実現します。サプライチェーンに関わる企業間での情報共有の仕組みを構築することが、チェーントレーサビリティの確立には不可欠です。
自社内の工程や履歴を管理する「内部トレーサビリティ」
一方で、内部トレーサビリティは、個々の企業やその工場内で製品や部品の流れを追跡するものです。これには、製造工程での原材料や半製品のロット管理、加工条件、品質検査結果の記録などが含まれます。
内部トレーサビリティの確立により、製造工程の可視化、最適化、不良品の原因特定、製品回収の迅速化が可能になります。
トレーサビリティが重要視される理由と業界への影響
トレーサビリティが重要視される理由、そして製造業や食品業界への影響はどのようなものがあるのでしょうか。ここでは次の3つのポイントについて解説します。
品質管理と消費者信頼の観点から見るトレーサビリティの重要性
製造業では、高品質の製品を安定して供給することが最優先課題です。しかし、サプライチェーンのグローバル化と多様化により、原材料の調達から最終製品までの全工程を一社だけで管理することが困難になっています。
ここで重要になるのが、トレーサビリティの確保です。各工程の情報を可視化し、問題の早期発見と原因の特定を可能にすることで、高品質な製品作りを支援します。
また、消費者の安全と安心への関心が高まる現代において、製品の原材料や製造工程に対する関心も高まっています。トレーサビリティを確立し、適切な情報開示を行うことで、消費者の信頼を得ることができます。
食品業界でのトレーサビリティの浸透とその効果
トレーサビリティが早くから導入されたのが、食品業界です。BSE問題や産地偽装事件などを契機に、食の安全性に対する消費者の意識が高まったことがきっかけでした。
現在、多くの食品メーカーや流通業者が、原材料の産地から製造、加工、物流、販売に至るまでの情報を一元管理できるトレーサビリティシステムを導入しています。これにより、問題発生時の迅速な原因特定とリコール対応、さらには消費者への適切な情報提供が可能になっています。
また、トレーサビリティの確保は食品ロスの削減にも貢献しています。賞味期限や在庫状況を正確に把握することで、効率的な生産・在庫管理が実現されています。
＜参照＞牛トレーサビリティ制度に関する情報：九州農政局 – 農林水産省、食品安全基本法
製造業各分野におけるトレーサビリティ導入の進展
食品業界以外でもトレーサビリティの重要性が広く認識されています。
自動車産業では、大規模なリコールが相次いだことを受け、部品のサプライチェーンマネジメントにおけるトレーサビリティの強化が進められています。各部品の製造履歴や品質情報を詳細に記録・管理することにより、不具合の早期発見と原因究明、そして迅速なリコール対応の体制が整っています。
電機・電子機器業界では、製品の安全性や品質に対する要求水準の高まりを受け、トレーサビリティへの取り組みが活発化しています。特に、医療機器や航空宇宙関連の製品では、厳格なトレーサビリティの確保が求められています。
こうした背景から、業種や業態に関わらず、トレーサビリティは製造業の競争力を大きく左右する重要な要素となっています。
トレーサビリティを支える主要な3つの技術と仕組み
トレーサビリティを実現するためには、製品や部品の情報を正確に記録し、追跡できる仕組みが不可欠です。現代の製造業では、バーコードやRFID、IoTなどの先進技術を活用することで、高度で効率的なトレーサビリティシステムを構築しています。ここでは、トレーサビリティを支える代表的な技術と仕組みを3つ紹介します。
①バーコードやICタグを用いた個体識別
トレーサビリティの実現には、個々の製品や部品を一意に識別し、その情報を記録・管理する必要があります。そのための主要な技術が、バーコードとICタグ（RFIDタグ）です。バーコードは、製品や部品に印刷または貼付されたラベルに、識別コードを縦線の太さと間隔で表現したものです。安価で導入しやすいことから、幅広い分野で活用されています。
一方、ICタグは、製品や部品に取り付けられた小型のチップに、識別コードや各種の情報を記録できるものです。非接触で読み取りができ、大量の情報を扱えることから、高度なトレーサビリティシステムに用いられることが多いです。
②IoTやセンサーによるリアルタイムデータ収集
近年、IoT（Internet of Things）技術の進展により、製造現場の機器や製品からリアルタイムにデータを収集することが可能になりました。
例えば、製造ラインに設置されたセンサーが、製品の位置情報や加工条件、品質データなどを自動的に記録し、これらのデータをトレーサビリティシステムに連携させることで、製造工程の可視化と管理の高度化が実現します。
また、倉庫や輸送車両に取り付けられたGPSセンサーから得られる情報を活用することで、物流段階でのトレーサビリティも強化できるでしょう。
製造現場DXプラットフォーム「Smart Craft」は、IoTデバイスを用いて設備稼働データを自動収集する機能を提供しています。これにより、個別開発せずに短期間で導入が可能です。詳しくはSmart Craftのサービスサイトをご覧ください。
③ロットトレースによる生産ロット単位の追跡管理
ロットトレースとは、製造業において一定量の生産ロットごとに製品を追跡管理する仕組みです。これにより、製造現場で使用された原材料、工程、日時などの詳細データを個々のロットと紐づけて記録できます。
品質問題やリコール事態が発生した場合、該当するロットの製品のみを特定し、迅速に対応することが可能です。これにより、効率的な品質管理が促進され、製品の生産履歴の透明性も向上します。
ロットトレースの主な活用場面には、品質管理、製品安全性の確保、リコール時の迅速な対応、在庫管理、サプライチェーンの最適化などがあります。ロット単位での可視化を通じて、製品品質と顧客満足度を向上させるとともに、製造プロセスの透明性と信頼性のある製品情報の提供が可能となります。
例えば「Smart Craft」のロットトレース機能は、トレーサビリティのデータと製造実績や品質記録を密接に紐づけることができます。この機能により、製造過程での各部品の使用状況や作業の詳細がデジタルデータとして正確に記録され、これらの情報が製造実績や品質記録と直接リンクし、製品の全生産過程を透明かつ正確に追跡できるようになります。
（製造現場DXプラットフォーム「Smart Craft」のロットトレース機能）
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トレーサビリティ導入のメリットと効果
ここまで見てきたように、トレーサビリティは製造業の品質管理と競争力強化に不可欠な要素です。ここでは、トレーサビリティ導入によって期待されるメリットと効果を具体的に見ていきましょう。
- メリット① 品質管理の高度化と不良品の早期発見
- メリット②リコールなどへの迅速な対応とブランド毀損の防止
- メリット③ 製造工程の見える化による業務効率化
- メリット④ 規制対応力の強化とグローバル競争力の向上
メリット① 品質管理の高度化と不良品の早期発見
トレーサビリティシステムによって、製造工程の各段階における品質データを詳細に記録・管理することができます。これにより、不良品の発生原因を迅速に特定し、適切な対策を講じることが可能になります。
また、工程間の品質のばらつきを定量的に把握することで、製造条件の最適化や品質管理の高度化も実現できるでしょう。結果として、不良品の発生率を大幅に低減し、品質の安定性と信頼性を高めることができます。
メリット② リコールなどへの迅速な対応とブランド毀損の防止
製品の欠陥や不具合が発覚した際、どの製品が該当するのかを特定し、迅速にリコール対応を行うことが求められます。トレーサビリティシステムを活用することで、問題のある製品のロット番号や製造時期、流通経路などを即座に把握することができます。
これにより、リコールの範囲を最小限に抑え、被害の拡大を防ぐことができます。迅速かつ適切なリコール対応は、企業の信頼性を維持し、ブランド毀損のリスクを最小化する上でも重要です。
メリット③ 製造工程の見える化による業務効率化
トレーサビリティシステムは、製造工程の進捗状況や在庫状況をリアルタイムに可視化（見える化）する効果もあります。各工程の稼働状況や製品の位置情報を正確に把握することで、生産計画の最適化や、ボトルネックの特定と改善が可能になります。また、在庫の適正化や、リードタイムの短縮にも役立つでしょう。
関連記事：
製造業の進捗管理を改善！見える化のコツやすぐに使える手法を紹介
メリット④ 規制対応力の強化とグローバル競争力の向上
近年、製品の安全性や品質に関する規制は、世界的に強化される傾向にあります。特に、グローバル市場で事業を展開する製造業者にとって、各国の規制への対応は重要な課題となっています。
トレーサビリティシステムを導入することで、製品の原材料や製造工程に関する詳細な情報を管理し、規制当局の要求に迅速かつ的確に応えることができます。
また、トレーサビリティの確保は、グローバル市場における顧客からの信頼獲得にも不可欠です。高いトレーサビリティ能力を持つことは、製品の安全性と品質に対する責任を果たす姿勢の表れであり、競争力の源泉となります。
以上のように、トレーサビリティの導入は、製造業の品質管理、業務効率化、そしてグローバル競争力の強化に、多くのメリットをもたらします。
トレーサビリティ導入の課題
トレーサビリティ導入によるメリットは明らかですが、実際の導入においては、いくつかの課題に直面することがあります。ここでは、主要な3つの課題について詳しく見ていきましょう。
課題① データ整合の難しさ
トレーサビリティシステムは、複数の部門や取引先からのデータを統合して機能します。しかし、各部門やパートナー企業が異なるシステムやフォーマットを使用している場合、データの整合性を確保することが難しくなります。
特に、多数のサプライヤーや製造拠点、販売チャネルを持つ大企業では、一元的なデータ管理が複雑になりがちです。データの不整合は、意思決定の誤りや業務効率の低下を招き、最終的には企業の信頼性を損なう恐れがあります。
課題② セキュリティリスクの存在
トレーサビリティシステムは、製品の設計や製造に関する機密情報を多く扱います。これらの情報が外部に漏洩した場合、企業の競争力に大きな打撃を与えるだけでなく、顧客の個人情報が危険にさらされる可能性もあります。
したがって、トレーサビリティシステムの導入に際しては、システム自体のセキュリティ対策を入念に確認する必要があります。加えて、社内のセキュリティポリシーの策定や、不正アクセスを監視する体制の整備など、総合的なセキュリティ対策が欠かせません。
課題③ 初期投資コストの高さ
高度なトレーサビリティを実現するためには、専用のシステムやソフトウェアの導入が必要です。特に、自社の業務に合わせたカスタマイズや、既存システムとの連携が必要な場合、初期投資のコストは高額になりがちです。
中小企業にとって、このコスト負担は大きな障壁となることが少なくありません。トレーサビリティ導入の必要性は理解していても、経済的な理由から二の足を踏まざるを得ないのが実情です。
しかし最近では、クラウドベースのトレーサビリティシステムの普及により、導入コストを大幅に抑えることが可能になっています。例えば、製造現場DXプラットフォーム「Smart Craft」は、日々蓄積される生産の実績を活用し、人・モノ・設備に関するあらゆるデータを可視化し、分析することができます。
クラウドベースのサービスにつき、自社でサーバーを用意する必要がなく、導入コストを従来の10分の1程度に抑えることが可能です。「Smart Craft」の特徴や機能について詳しくはこちらをご覧ください。
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製造業のトレーサビリティ導入・強化時におさえておきたい4つのポイント
トレーサビリティの導入・強化は、製造業の競争力を高める上で不可欠な取り組みです。しかし、その実現には様々な課題も存在します。ここでは、トレーサビリティ導入・強化を成功させるためのポイントを解説します。
- ポイント① 自社の課題と目的に即した導入計画の策定
- ポイント② 部門横断的な推進体制の構築とマインドセットの共有
- ポイント③ データ活用を見据えたシステム設計と柔軟性の確保
- ポイント④ 専門知識を有するパートナー企業との連携
ポイント① 自社の課題と目的に即した導入計画の策定
トレーサビリティシステムの導入に当たっては、自社の抱える課題や目的を明確にし、それに即した計画を策定することが重要です。
例えば、品質管理の高度化が主な目的であれば、製造工程のデータ収集と分析に重点を置いた設計が求められます。一方、サプライチェーンの可視化が主な目的であれば、取引先との情報共有の仕組み作りが中心となります。
自社の状況を踏まえた上で、優先順位を付けて段階的に導入を進めることが、効果的かつ効率的な実現につながります。
ポイント② 部門横断的な推進体制の構築とマインドセットの共有
トレーサビリティの導入は、製造現場だけでなく、調達、物流、販売など、様々な部門の協力が不可欠です。また、経営層の理解と支援も欠かせません。
そのため、部門横断的なプロジェクトチームを編成し、全社的な推進体制を構築することが重要です。併せて、トレーサビリティの意義や目的を社内で共有し、一人ひとりの意識を高めていく必要もあるでしょう。
トレーサビリティは、単なるシステム導入ではなく、業務プロセスの変革を伴う取り組みです。全社一丸となって取り組む体制と意識が、成功の鍵を握っています。
ポイント③ データ活用を見据えたシステム設計と柔軟性の確保
トレーサビリティシステムの設計に際しては、データ活用を見据えた視点が欠かせません。
収集したデータをどのように分析・活用するのか、そのためにはどのようなデータが必要なのかを検討した上で、システムの機能や構成を決定する必要があります。
また、将来的な業務の変化や技術の進歩に対応できるよう、柔軟性と拡張性を備えたシステム設計も重要です。モジュール化や、オープンなインターフェースの採用などにより、段階的な機能追加や、他システムとの連携を容易にすることが望まれます。
ポイント④ 専門知識を有するパートナー企業との連携
トレーサビリティシステムの導入・運用には、高度な専門知識が必要とされます。特に、IoTやビッグデータ、AIなどの先進技術を活用する場合、自社だけでは対応が難しいケースも多いでしょう。
そこで重要になるのが、専門知識を有するパートナー企業との連携です。トレーサビリティに関する豊富な知見と実績を持つベンダーや、先進技術の活用に長けたIT企業など、自社の強みを補完する役割を担ってもらうことが有効です。
適切なパートナーを選定し、協力関係を構築することで、スムーズかつ効果的なトレーサビリティの実現が可能となります。
以上のようなポイントを押さえつつ、自社の状況に合ったアプローチでトレーサビリティの導入・強化を進めることが、製造業の競争力強化につながります。
トレーサビリティ導入事例と成果【株式会社メディカロイドの事例】
国産の手術支援ロボットを開発・製造する株式会社メディカロイドでは、事業拡大に向けた新生産ラインの立ち上げに際し、製造現場のデジタル化を推進すべく、弊社の製造現場DXプラットフォーム「Smart Craft」を導入しました。
同社では、紙やExcelでの手作業による製造記録管理が主流で、工程の進捗状況が可視化されていないことや、データ抽出の非効率性などが課題となっていました。また、品質管理業務においても、紙とExcelに依存したデータ管理により、作業負担が肥大化していました。
Smart Craftを活用し、製造記録のデジタル化、リアルタイムな工程進捗管理を実現。その結果、生産工程の約10％に相当する工数削減、品質管理業務の作業負担の大幅な軽減、納期遵守率と品質の安定性向上といった成果を上げています。
製造業の未来を拓くトレーサビリティ
この記事では、製造業におけるトレーサビリティの重要性とその導入・強化のポイントについて解説してきました。トレーサビリティは、品質管理の高度化、リスク対応力の強化、業務効率化を通じて、製造業の競争力を向上させる不可欠な取り組みです。
トレーサビリティを実現するためには、明確な目的意識と戦略的なアプローチが必要です。自社の課題と目標に基づいて、データを活用したシステム設計や、部門横断的な推進体制の構築に着手することが重要です。
メディカロイド社の事例からもわかるように、トレーサビリティの導入は品質管理の高度化と業務効率化に大きな効果をもたらします。製造現場のトレーサビリティ取り組みを始めるための低コストかつ迅速な解決策として「Smart Craft」のシステムが選ばれています。
製造業のデジタルトランスフォーメーションを加速し、データ駆動型のスマートファクトリーを実現するための第一歩として、まずは資料請求からSmart Craftの導入を検討してみてください。
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