トレーサビリティとは?メリットや課題、製造・食品業界事例もわかりやすく紹介
「トレーサビリティ」という言葉は近年、多くの業界で頻繁に取り上げられるようになっています。特に日本の製造業では、品質管理や供給チェーンの透明性を高めるための重要な取り組みとして、このトレーサビリティが幅広く浸透しています。
トレーサビリティの取り組みにより品質管理、信頼性向上、効率化といったメリットにつながるため、企業にとっても重要な取り組みです。これにより、製品の一貫した品質を保ち、消費者との信頼を強化することが可能になります。導入初期のコストはかかりますが、長期的な利益とリスク軽減の観点から注目されています。
また、トレーサビリティは製造業だけに留まらず、ビジネスや日常生活全般にも大きな影響を与えています。この記事では、トレーサビリティが何であるか、その導入メリットと課題、そして製造や食品業界での具体的な事例を交え、わかりやすく紹介します。
目次
トレーサビリティとは

トレーサビリティとは、特定のモノ(製品など)が生産されてから消費されるまでを追跡・把握できる状態にすることです。語源は、英語の“Traceability”から来ています。
調達・生産・流通・販売の各工程で仕入れ先や製造者を記録することによって、品質管理や供給チェーンの透明性を高めることができます。
日本におけるトレーサビリティの歴史
日本において、トレーサビリティは2003年に制定された「牛トレーサビリティ法」をきっかけに一般的になりました。その背後には、食品安全性の担保や消費者からの信頼獲得といった理由があります。トレーサビリティの定義に関しては、国際標準化機構のISO9001でも定められています。
トレーサビリティとトレーサビリティーの違い
トレーサビリティとトレーサビリティーは意味としては同じですが、使われるシーンによって違いがあります。「トレーサビリティ」は専門的な文書や学術論文といった、より専門的な文脈や国際的な場で使用されることが多いです。一方、「トレーサビリティー」は、日本国内でよく使われる表現であり、一般的な文脈でよく見られます。
「トレーサビリティ」の言い換えや類義語
「トレーサビリティ」の言い換えや類義語については以下の通りです。
- 追跡可能性…「トレーサビリティ」の直訳とも言える表現で、特定の物や情報が追跡できる状態を指す。
- 透明性…サプライチェーンやプロセスが公開されていて、外部から確認できる状態を指す。
- 監査可能性…主に財務や法的な文脈で使われるが、トレーサビリティも含む広い概念。
- 検証可能性…何らかの主張やデータが第三者によって確認できる状態を指す。
「トレーサビリティ」はこのように、特定の物や情報の追跡から、サプライチェーンの透明性、法的・財務的な監査、そして第三者による検証まで、多角的な概念を包括しています。
トレーサビリティの仕組み・システムの基本構造
トレーサビリティにおいて核となる仕組みと重要性について、それぞれ説明します。
・データ収集
製品や部品の製造、流通、販売などの各段階でデータを収集します。これにより、製品の品質や流通状況を詳細に把握することが可能です。
・データベース
収集したデータは一元的に管理されるデータベースに保存されます。これにより、データの整合性と安全性が確保され、必要な情報に容易にアクセス可能になります。
・識別タグ
バーコードやRFID(無線周波数識別)タグを用いて、製品を個別に識別します。これにより、特定の製品や部品の追跡が容易になり、誤送や偽造のリスクを低減します。
・追跡・監視
システムはリアルタイムでデータを追跡・監視し、必要な情報を提供します。これにより、製品の現在位置や状態、品質などを即座に確認でき、迅速な対応が可能になります。
このように、トレーサビリティシステムはデータ収集からデータベースの管理、製品の識別、そしてリアルタイムの追跡・監視までを網羅しています。これらの要素が組み合わさることで、高度な品質管理と効率的な運用が可能になります。
トレーサビリティ導入のメリットと課題

ではトレーサビリティ導入のメリットは何でしょうか。導入により事前に把握しておくべき課題と合わせて見ていきましょう。
トレーサビリティ導入の4つのメリット
トレーサビリティ導入のメリットは、主に次の4つです。
それぞれ、詳しく見ていきましょう。
①コスト削減
効率的な在庫管理とロス削減により、企業はコストを大幅に削減できます。これは特に、製造業や小売業においては非常に重要な要素です。コスト削減が実現できれば、その分他のビジネス活動や新しいプロジェクトに投資する余裕が生まれます。
②効率化
供給チェーン全体の効率が向上します。特に製品のリコールが発生した場合、トレーサビリティシステムを導入していると、迅速かつ効率的に対応することが可能です。これは、消費者の安全を確保する上で非常に重要な要素となります。
③信頼性向上
透明な情報管理により、消費者やビジネスパートナーとの信頼関係が強化されます。これは、長期的なビジネス関係を築く上で非常に重要です。信頼性が高まれば、口コミによる新規顧客の獲得も期待できます。
④法的リスクの削減
規制や法律に対する適合性が確保されるため、企業は法的リスクを大幅に減らすことができます。これは、特に規制が厳しい業界でのビジネスにおいては、避けては通れない課題です。
製造業ならではのトレーサビリティのメリットや重要性についてはこちらの記事で解説しています。
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製造業におけるトレーサビリティとは?重要視される理由や技術、事例を解説
トレーサビリティ導入の3つの課題

トレーサビリティ導入の課題は、主に次の3つです。
それぞれ、詳しく見ていきましょう。
①データ整合の難しさ
複数の部門やビジネスパートナーとのデータ整合が難しい場合があります。これは特に大規模な企業や、多くのサプライヤー、製造拠点、販売チャネルを持つ企業にとって、一元的なデータ管理が困難になる主要な要因です。
データの不整合が生じると、誤ったビジネス上の判断を下す可能性が高まり、最終的には企業の信頼性にも影響を与えかねません。
②セキュリティリスクの存在
データ漏洩や不正アクセスのリスクが存在します。企業が多くの機密情報を持っている場合、その情報が外部に漏れると、企業の競争力はもちろん、顧客の個人情報までが危険にさらされます。
そのため、トレーサビリティ導入の際は導入するシステム自体にセキュリティの懸念がないかどうかの確認や、自社内におけるセキュリティポリシーや監視体制の確立といった、セキュリティリスクを最小限に抑えるための確認が必要です。
③初期投資コストの高さ
システム導入には高額なコストがかかる場合があります。特に、カスタマイズが必要な場合や、既存のシステムとの連携が必要な場合、初期投資はさらに高くなる可能性があります。中小企業にとっては、この高い初期コストが導入の大きな障壁となることが多いです。
しかし最近では、そのような課題が少なく、低コストで導入可能な製造現場向けのクラウドシステムも存在します。
製造現場DXプラットフォーム「Smart Craft」は、日々蓄積される生産の実績を活用し、人・モノ・設備に関するあらゆるデータを可視化し、分析することができます。また、クラウドベースのプロダクトにつき、サーバーを用意する必要がないので、従来の10分の1程度にコストを抑えた導入が実現できます。
企業に求められる社会的責任とトレーサビリティ
トレーサビリティの導入にはメリットがある一方で、課題も存在することがわかりました。
では、社会全体を見た時に、企業にとってどのような社会的責任があり、その責任を果たすべきなのでしょうか。
現代の企業は、単に利益を追求するだけでなく、製品の安全性や品質、環境への影響配慮における社会的責任も果たす必要があります。
ここでは、企業が持つ社会的責任と、その責任を果たすために不可欠な取り組みについて詳しく解説します。
企業が持つ社会的責任とその具体例
企業は、製品が安全であることを確認し、リスクを最小限に抑える責任があります。例えば、食品企業は添加物の安全性を確認し、自動車メーカーは車の安全機能をテストするなど、各業界における基準を踏まえた取り組みが必要です。
また、透明性の提供や、環境への配慮も重要です。製品の生産過程や成分、供給チェーンなどを明らかにすることで、消費者は製品を選ぶ際により参考になる情報を得られます。
環境への配慮については、環境に優しい製品を開発し、持続可能な生産方法を採用することで、企業は環境への影響を最小限に抑える責任を果たします。例えば、再生可能エネルギーの使用や廃棄物のリサイクルなどがあります。
トレーサビリティが果たす役割
トレーサビリティが果たす役割には、「品質管理」「リスク管理」「信頼性の向上」などがあります。
品質管理
トレーサビリティシステムを導入することで、製品の品質を一貫して高く保つことが可能です。これにより、消費者は安心して製品を購入できます。
リスク管理
不良品や欠陥品の流出を防ぐためにも、トレーサビリティは非常に重要です。例えば、食品のリコールが発生した場合、該当する製品を迅速に特定し、回収することができます。
信頼性の向上
企業と消費者の間に信頼関係を築くためには、透明性と品質の確保が必要です。トレーサビリティは、これらを実現するための有力な手段となります。
消費者と企業の双方に与える影響
まず消費者側にとっては、トレーサビリティ導入により製品の安全性や品質に対する信頼が高まります。これにより、消費者はより積極的に製品を購入する可能性が高まります。
そして企業側にとっては、企業のブランド価値が向上し、長期的には売上も増加する可能性があります。また、リスク管理が強化されることで、企業の持続可能性も高まります。
トレーサビリティとSDGs
トレーサビリティは、持続可能な開発目標(SDGs)の目標12(責任ある消費と生産)に直接関連しています。原材料の持続可能な調達や、エネルギー効率の高い生産プロセスの採用など、多くの企業がSDGs達成に向けた取り組みを行っています。
<参考>
SDGsとは? | JAPAN SDGs Action Platform | 外務省
トレーサビリティ導入のためのICT技術

近年、ICT(情報通信技術)の進化に伴い、トレーサビリティの効率と精度が大幅に向上しています。
ここでは、ICT技術の中でも特に海外でも注目されているブロックチェーン、データセキュリティ、IoTデバイスとの連携について詳しく解説します。
ブロックチェーンの活用事例
ブロックチェーン技術は、データの透明性とセキュリティを高める手段として注目されています。この技術を用いることで、改ざんが困難なデータの履歴を作成することができます。
特に食品産業では、産地情報や製造過程がブロックチェーンで記録され、消費者が簡単に確認できるようになっています。また、ブロックチェーン技術は、製品のトレーサビリティを大幅に向上させる効果があります。
具体的には、取引における情報フロー、在庫フロー、財務フローの透明で改ざん不可能な履歴を作成することで、情報の信頼性が向上します。これが供給チェーン内の各関係者に対する信頼を生むため、製品の配送がより迅速かつコスト効率的になります。
<参照>
Building a Transparent Supply Chain
データセキュリティの重要性
トレーサビリティにおいて、多くの機密データが生成されるため、そのセキュリティが非常に重要です。不正アクセスやデータ漏洩を防ぐための暗号化、二要素認証、内部ネットワークの隔離などの厳格なセキュリティ対策が必要です。
強力なセキュリティ対策はコストがかかる場合がありますが、これはトレーサビリティデータという機密性の高いデータを保護するために必要な投資といえるでしょう。
IoTデバイスとの連携
IoTデバイス(センサー、カメラなど)を用いることで、リアルタイムでのデータ収集と分析が可能です。例えば、製造業では製品の状態(温度、湿度など)をリアルタイムで監視することが可能です。
これにより、品質の低下や遅延、紛失などの問題を即座に察知し、対応することができます。
製造現場DXプラットフォーム「Smart Craft」は、IoTデバイスを用いて設備稼働データを自動収集する機能を提供しています。これにより、個別開発せずに短期間で導入が可能です。詳しくはSmart Craftのサービスサイトをご覧ください。
<関連リンク>
Smart Craft、製造現場DXを加速させる3つの新機能をリリース
トレーサビリティ事例と管理方法
製造業において、トレーサビリティは不可欠な要素となっています。
部品の供給源から最終製品までの流れを追跡することで、品質管理、在庫管理、リスク軽減など多くのメリットがあります。
ここでは、製造業での具体的なトレーサビリティ事例、管理方法、そしてそのROI(投資対効果)について詳しく解説します。
具体的な業界別のトレーサビリティ事例
例として、自動車産業、食品産業、電子機器におけるトレーサビリティ事例について以下にまとめました。
自動車産業のトレーサビリティ事例
自動車産業では、部品の不良がリコールにつながる可能性が高いため、各部品の製造元やロット番号を厳密に管理しています。これにより、問題が発生した場合でも迅速に原因を特定し、対処することが可能です。
食品産業のトレーサビリティ事例
食品産業では、原材料の出所を明確にすることで、食品安全を確保しています。例えば、農薬や添加物の使用状況を追跡することで、消費者に安全な製品を提供できます。
電子機器のトレーサビリティ事例
電子機器の製造では、高度な品質管理と効率的な在庫管理が求められます。部品一つひとつにトレーサビリティを適用することで、製品の品質を一貫して高く保ち、在庫の無駄を削減します。
トレーサビリティの管理方法とその効果
各システムにおけるデータの管理方法とその効果については次のとおりです。
バーコードシステム
バーコードシステムは低コストで導入でき、基本的な追跡が可能です。特に小規模な製造業においては、初めてのトレーサビリティ導入として効果的です。
RFID(無線周波数識別)
RFIDは高度な情報を記録でき、リアルタイムでの追跡が可能です。これにより、製造過程での即時の品質チェックや在庫管理が行いやすくなります。
ブロックチェーン
ブロックチェーンは改ざんが困難であり、高度なセキュリティが確保されます。特に高価な製品や、偽造が問題となる製品においては、ブロックチェーンの導入が有効です。
上記の管理方法については一例ですが、他にも様々なトレーサビリティを実現するための方法が存在します。
トレーサビリティのシステムについて詳しくは次の記事で詳細を説明しています。
トレーサビリティシステムとは?仕組みや導入メリットを簡単に解説
トレーサビリティの導入によるROI(投資対効果)
トレーサビリティの導入によるROI(投資対効果)として一番にあげられるのは「コスト削減」です。
効率的な在庫管理と供給チェーン最適化により、コスト削減が期待できます。特に、無駄な在庫を抑制することで、資本を有効に活用できます。
また、信頼性の向上やリスク軽減といった効果も期待できるでしょう。
品質の高い製品を提供することで、顧客からの信頼を得られます。これがリピート購入や口コミにつながり、長期的な売上向上に貢献します。
リスク軽減については、リコールや法的な問題を早期に発見し、対処することが可能です。これにより、企業の評判を保ち、それと合わせて、未然に問題を防げる可能性が高まります。
トレーサビリティに関連する法律と規制

トレーサビリティは、製品やサービスの品質、安全性、透明性を確保するために不可欠な要素です。しかし、その実施には法的な側面もあり、企業は様々な法律と規制を遵守しなければなりません。
ここでは、日本と海外の関連法、そして企業が遵守すべきポイントについて詳しく解説します。
日本におけるトレーサビリティ関連法(食品安全法、個人情報保護法など)
食品安全法は、食品のトレーサビリティに関する基本的な規制を設けています。これにより、食品製造業は原材料の出所や製造過程を明確にし、食品の安全性を確保する責任があります。
<参照>
食品安全基本法
個人情報保護法も、消費者の個人情報を安全に管理するための規制です。この法律は、個人データを取り扱う全ての企業や組織に適用されます。
<参照>
個人情報の保護に関する法律
日本の食品安全法は主に食品製造業に適用されますが、個人情報保護法は多くの業界、特に個人データを取り扱う全ての企業や組織に適用されます。自社に関わる法律についてあらかじめ確認しておくようにしましょう。
海外の法的状況と日本との違い
EUでは、一般データ保護規則(GDPR)があり、データのトレーサビリティに厳格な規制があります。これにより、EU圏内でビジネスを行う企業は、データの管理に特に注意を払う必要があります。
アメリカでは、各州が独自のデータ保護法を持っている場合が多く、連邦レベルでの統一された規制は少ないです。
海外の法的状況、特にEUのGDPRなどは、日本の企業が海外でビジネスを行う際にも影響を与えます。このため、国際的なビジネス展開を考える企業にとっては、多角的な法的対応が必要です。
企業が遵守すべきポイント
これまでの内容も踏まえ、企業が遵守すべき3つのポイントについて以下にまとめました。
データの保存とアクセス履歴の管理
データの保存とアクセス履歴の管理は、法的にも技術的にも必須です。これにより、データの不正使用や漏洩を防ぐことができます。
適切なセキュリティ対策と定期的な監査
セキュリティ対策を施し、定期的な監査を行うことで、データの安全性を高めることができます。
法的遵守のコスト
法的に遵守すべきポイントを実施するためのコストは、企業の規模や業界、使用する技術によって異なります。しかし、遵守しない場合のリスク(罰金、評判損失など)を考慮すると、これは必要な投資と言えるでしょう。
まとめ
この記事では、トレーサビリティの基本的な概念、そのメリットと課題、さらには食品と製造業界での具体的な事例を詳しく説明しました。また、ICT技術の活用方法や法的側面、企業がどのようにトレーサビリティを効果的に導入できるかについて紹介してきました。
トレーサビリティについては今後も普及・浸透し続ける中、企業においてもトレーサビリティを取り入れていく重要性が高まっています。
品質管理、信頼性向上、効率化につながる取り組みだからこそ、トレーサビリティを実施して、現場の見える化・データ活用を促進し、生産性向上を実現しましょう。
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トレーサビリティへの取り組みを、まずは低コスト・短期間から始めてみましょう。
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